A線上の二人

「とりあえず、頂いてます」

「……とても今更だけれど、どうぞ」

 目の前には、気兼ねがいるかどうかも解らない達哉くん。

 音楽は、どこかで聴いた事があるオーケストラチックなBGM。

 飲み物に、どちらかと言うとフルーティで、しっかりした味のワイン。

 どこで覚えたのか、手の込んだ、この料理がとても合う。

「あまり飲み過ぎるな」

「たっちゃんも飲んでるじゃんか〜」

「僕は……」

 と、言いかけて、達哉くんは溜め息をついた。

「僕も飲むか」

 呟きながら立ち上がって部屋を出ていく。

 それを気分よく見送り、流れる音楽に身を任せた。

 耳に入って来るのは、流れる様な旋律のワルツの調べ。

 ピアノ曲を聴いた事は少ないはずなのに、これは最近聴いた事があるような気がする。

「……なんだっけ」

「何が」

 返事が返ってくるはずもない独り言に、返事が返って来てワインにむせた。

「……大丈夫か?」

 振り返ると達哉くんがいて……

 でも、手に持った高そうなボトルに視線が向かう。

「それ、何?」

「ブランデー」

「ブランデー……」

 ひょいと、いかにも繊細そうな琥珀色のボトルが差し出され、ラベルに視線を走らせる。

「リチャード・ヘネッシー・コグナック?」

「……リシャール・ヘネシー・コニャック」

 Richard Hennessy COGNACで、どうしてリシャールになるのよ!

 と、ムッとしたところで、スッとボトルを引かれた。

「親父のコレクション」

「よくあったね」

「飲みかけのは捨てたけれど、未開封なのは取っておいた」

「へぇ?」

 音楽家のおじさんの……いわゆる遺産かぁ。

「これだと、10万クラスだろうな」

 サラッと返って来た言葉に悪酔いしそうになった。

「じゅ……10万?」

「ナポレオン級。バカラのボトルだしな」

 いや。解らないけれども。

「……この家って、やっぱり資産家なんだね」

「僕の学費と、20歳になった時の相続税でほとんどなくなったけど」

 ……ああ、そう。

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