A線上の二人

 テレビの音や、冷蔵庫の音、普段気にはしていなくても、何かしら音に囲まれて生活している私達。

 この広い家の居間には、確か大きなテレビがあった。

 その音は、もちろんつけていないので聞こえない。

 台所に立ち寄った事はなくても、そこに冷蔵庫があるのは見なくても判る。

 どこにあるのか解らないくらいに、遠い。

 そして確か、この広い家には炊事や家事を任されている家政婦さんもいたはずだ……。

 だけど広すぎて、歩く足音にも気付くことすらない沈黙。


 その静けさに、微かな息苦しさと、どこかしらの重圧を感じ始めていた時、


「……静かでしょう?」

 そっと囁かれた言葉に、私は彼を見た。

 少しだけ、笑ったようにも感じた。

「父や母……もちろん僕もだけれど、練習するから、防音にしてあるんだ」

「ぼうおん?」

「外に音がもれないようにしてあるんだ」

 それがどういう事なのかは、当時の私には解らなかったけれど……

 広いこの家は、住宅地の中央に建っている。

 それ故に、近隣に対して気を使っての事だったのだろう、と、今なら判る。

 だけれど……当時の私にはもちろん理解などしてなくて、

「君が来ると、音があって楽しいよ」

 その言葉だけを、受け止めていた気がする。










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