A線上の二人

「床はいや、床は」

 何て言うか、それこそスイッチが入ってしまえば何処だっていいのだろうけれど。

 改めてこういう雰囲気になってしまうと……

 とってもうろたえる。

「ソファーだよ」

「でも、狭いし……」

「……広ければいい?」

 そういう事を言っている訳ではないのだけれど……。


 達哉くんに抱かれたくない訳じゃない。

 私も経験が豊富と言う訳では無いけれど、自分本位な一方的さが無くて好きだ。

 だけど、途中から訳も解らなくなってしまう。

 何て言うか、そうなってしまうのが恐い。

 恐いから、なんとかしようと考える。


「あ……この曲!」

 どこかで聴いた事のあるピアノの旋律、そして私の言葉に、彼の動きが止まった。

 やっぱり達哉くんは音楽家。

「……これ?」

「うん。どこかで聴いたと思うんだけど、題名が思い出せ無くて」

 耳を澄ませる達哉くんの腕から、そっと逃げ出そうとして、

「ああ……これは前に教えた」

 思わず眉を寄せた。

「聞いた?」

「弾いたよ」

「聴いた?」

 覚えがない。

 そんな事を考えていたら、案外答えは簡単に返ってきた。

「Je te veux」

「あ……」

 結局、意味が解らなかった曲だと気付いて視線が合った。

 ……その視線が、どことなく楽しそう。


「ちなみに、和訳はね」

「う、うん」

 あ、何だか聞かない方がいいかも?


「あなたが欲しい……だよ」


 そう言って、あっさりと押し倒された。











fin.
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