A線上の二人
3
昔の懐かしい綺麗な思い出たち。
そんな事を考えながら帰宅すると……
「ちや。達哉くんの家にコレ届けてくれない?」
いきなり煮物の入ったタッパを突き付けてくる母。
「………私、残業して帰ってきたんだけれど?」
パンプスを脱ぐ足を止め、それから笑顔の母を見る。
とても素晴らしい、晴れやかな隙のない笑顔。
……聞く耳は持っていないようだ。
「いいじゃない。車で5分の距離よ」
「はいはい」
溜め息混じりに受け取って、達哉くんの家に向かった。
思えば、電話で何度かやり取りしているけれど、会いに行くのは久しぶりかも。
確か、学生の時だから……。
一昨年。
「……またやったなぁ」
ぼやきながら車を走らせる。
達哉くんて、しばらく会わないとイヤミっぽいんだよね。
チクチクと言うより、いきなりスパンと言ってくるっていうかさ〜。
まぁ、しょうがないじゃないか。
私も社会人だし、達哉くんだって楽団のお仕事の他に、お弟子さんみたいな生徒さんにヴァイオリンを教えているんだし。
それに、達哉くんは遠い親戚ってだけで、私は彼氏持ちなんだし……。
史之なんて、他の男と出歩くのって嫌な顔するしさ。
自分は営業職で、ろくにデートの時間も作れないくせに。
……私も、たいして作ってないけれど。
史之とは大学の頃から付き合いだからなぁ。
どうもなぁなぁになって来ているかも。
同じ大学で、講義を受けている時、隣り合わせの席になったのがきっかけ。
気がつけば、隣りに座る事が増えていて。
気がつけば、一緒に昼食を食べるようになっていて。
気がつけば、ライブにも出掛けたり、飲みに行ったり……。
そして、告白された。