A線上の二人

 人生で生まれて初めての告白は、とても嬉しくて、恥ずかしくて……。

 有頂天なくらいにウキウキして、無意味にお洒落に気を使ったり、意味もなく高い声で話したり。

 一時間くらいは平気で電話したり、デコメを使ったりして……

 だけど最近なんかは連絡もこないし、メールすらこない。


 これはどうしたことだ?


「それで、君は愚痴を言いに来たのかい?」

 話し続ける私を、ご飯を食べながらボンヤリ眺めている達哉くん。

「愚痴……かなぁ?」

「愚痴だろう」

 ……何だろう、いつの間にか達哉くんに愚痴を言っていたらしい。

「それは失礼」

 口の中でもごもごと謝ったら、ちらっと目が合った。

「元気だったかい?」

「見ての通りよ」

「仕事、楽しい?」

「そう! 今度ね〜、新しいプロジェクトに携わる事になって、残業増えて大変なの」

「……楽しいみたいだな」

「………う、うん」

 達哉くんは相変わらずの無表情。

 でも、これだけ長い付き合いになれば、無表情の中の感情も読めたりする。

「なんか、疲れてる?」

 首を傾げると、じっと煮物を見ている達哉くん。

「……煮物、うまい」

「聞いてないし」

「だから、うまい」

 ガタンと立ち上がると、上がる視線。

「あ……。こら」

 無視には無視。

 つかつかと食堂を出ると、〝練習場〟と呼んでいる部屋のドアを開ける。


「あーあ……」

 呟いて、溜め息。

 ソファーに置かれたヴァイオリンケース。

 立て掛けられた弓。

 開かれたままのグランドピアノ。

 それから、足の踏み場もないくらい、雑然と撒かれた楽譜。


 仮にも楽士さまが、楽譜を疎かにするって言うのはどうかと思うんだけど。

 落ち着いて後を追って来た達哉くんを見上げる。

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