最果てのエデン

唇に笑みを浮かべたイチくんの顔は整っているから綺麗で、でもそれがひどく彼を造り物めいて見せた。


――なんであたしは、イチくんを苛立たせることしか出来ないんだろう。



きゅっと拳を握り締めて、黙り込む。
ここにいていいのかな。イチくんはあたしのこと嫌いだろうに。答えの出ない問答を繰り返す。


沈黙が続いて、イチくんがまた小さく息を吐いたのが分かった。

とんっと柔らかい感覚が頭を通り過ぎて、イチくんの背中が完全に彼の自室に消えてからようやくあたしは頭を撫でられたのかも知れないという事に気がついた。

イチくんの指先が触れた部分にあたしもそっと触れてみる。

なんだかこそばゆいような、もどかしいようなそれでいてすっと暗いところへ堕ちていくような心境にも似ているように思う。

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