最果てのエデン

名前を呼ばれて、あたしははっと顔を上げる。
どくんと心臓が高鳴る。告げられる言葉が怖くて。

(飽きられるかもしれない、もう出て行けって言われるんじゃ)

渦巻く不安はたぶん表情に出ていたんだろう。
イチくんが小さく息を吐いて表情をゆるめた。


「今日土曜だろ、午前中から出かけたいから準備して」

「―――出かけるって、どこに?」

「万葉の墓参り」


それだけ言って、イチくんはあたしを残して部屋から出て行った。まだ頭痛の残る頭を押さえながらあたしは呆然とする。


――お墓参り、万葉の……。


万葉。
万葉のお墓参りなんて行ったことはなくて、実はあたしはその場所さえも知らなかった。

イチくんがそこにあたしを連れて行くという意味を想像してもそれはどうしても思いつけなくて、またあたしはじんわりと疼き出した右眼を押さえた。

どくん、と。脈打つ気がするそれは、万葉の死んだ証だった。
そして、あたしの罪の証。




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