最果てのエデン

「――もう、今日は上がってもいいって言ってたぜ、マスターが。お前ぼうっとしすぎ」

「……脩平」

「なに、お前。美月ちゃんと新婚生活楽しんでるんじゃなかったんだ? すっげぇやべぇ顔してんぞ」

「―――最悪だよ」


お言葉に甘えて上がらしてもらうわ。悪いな。

脩平の肩をぽんと叩いて、俺はタイを外した。


バックヤードに引っ込んで煙草を吸おうと口に銜えて火を点したのだけれど、甘い匂いをかいだ途端、みるみるそんな気が失せていってしまう。

けれどそれを箱に戻すわけにもいかず、設置してあるガラスの灰皿に押し付けた。

後に流していた前髪をくしゃりとかき混ぜれば、ぱさっと視界を覆い隠すように落ちてきて。



――『イチくん』『イチくん』


そう言って美月が自分の後ろに着いて回ってきていたのなんて、随分前の話だ。
そしてひどく短い期間だ。

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