Love Water―大人の味―
賢い人は助かる。
いちいち説明しなくても、雰囲気とか仕種とかで察してくれるから。
今年入社したばかりの矢野くんは、4大卒の22歳。
短大卒のあたしとは1つしか歳が違わない。
特に目立つ新人でもないけど、物腰は柔らかいし仕事熱心。
けっこう残業をしているところを見たことがある。
人懐こい性格なのか、あたしのことを苗字ではなく「雨衣さん」と名前で呼ぶ唯一の後輩。
第一印象は笑った顔が犬みたいだった。
彼は賢い。
だからきっと、何も言わずに車を回してくれたんだ。
「ごめんね、図々しくて」
「いや、俺から誘ったんですよ、全然大丈夫です」
「ありがとう」
軽く会話しながら、動き出す車。
あたしって、不謹慎な女なのかな。
ガラス越しに暗くなってきた景色を見ながら、ふとそんなことを思う。
昨日、彼と別れたばかりで他の男の車に乗るなんて。
あ、でもそれなら部長の部屋で眠った時点でそうか。
なんともいえない思いが、胸を支配した。