Love Water―大人の味―
駅前に近いところで、矢野くんに車を止めてもらう。
シートベルトを外すあたしに、彼が問い掛ける。
「ここでいいんですか?
駅まで送りますよ」
親切な矢野くんの申し出に笑って首を振る。
「ううん、大丈夫。
ちょっとそこのケーキ屋さんに寄りたいから。
本当にありがとう」
「そうですか」
助手席側の窓越しに見える小さなケーキ屋さんを見て、彼は頷いた。
「じゃあ、気をつけて下さいね」
「うん、じゃあ、お休みなさい」
ドアを開けて車を降りる。
そして急いでお店の中に入る。
本当は、矢野くんを見送ってあげたかったけど、なにしろこの雨だ。
彼も許してくれるだろう。
とりあえず濡れなくてよかったと思いながら、お店の中のケーキを眺める。
ここは、小さいけどとっても美味しいケーキ屋さん。
けっこうあたし、ここに来たりするんだ。
あたしだけが知ってる、穴場みたいなお店。
まぁ、店内にはたくさんお客さんがいて、当たり前に穴場なんかじゃないけど。