Love Water―大人の味―
どのケーキも、今はあたしの目には入らない。
それは、このタルトの意味するところが心に引っ掛かったからで。
…………『雨』ってまるで、『失恋』じゃない。
こういうのが、今のあたしにぴったりのケーキなんだ。
ぼんやりと箱に詰められるタルトを見つめる。
そして、はっと我に返って慌てて言った。
「あ、もう1つそのタルト下さい。違う箱に入れて……。
それから、『魔術師の赤い呪文』と………」
何種類かのケーキを適当に見繕って、箱に詰めてもらう。
部長のぶんを忘れるところだった。
お会計を済ませて、雨が降っているから厳重に袋に包んでもらって店を出る。
さっきまでの激しい雨とは違い、小雨になっていた。
『雨の虹の二重奏』。
駅に行くまでも、マンションに着くまでも、ずっと頭の中で繰り返しつぶやくのは、タルトの名前だった。
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