黒アゲハ Ⅱ -真実- 【完】


純たちがこんな会話をしていたとも知らずに、あたしは久しぶりにグランドピアノのイスに座った。


「……久しぶりだな」


鍵盤に触れる。

一音一音大切に……音を奏でていく。


あたしの指は止まることを知らずに弾き続けていた。


昔に戻ったように──…



昔弾いた曲を、今弾くと昔弾いてた(練習していた)時の感情になる、という。


悲しい気分や、悩んでいる時に弾いてた(練習していた)曲を弾けば、そのまま悲しい気分や、悩んでいる時の気分になる。

楽しい気分や嬉しい時に弾いてた曲も同様、そのまま今の自分に流れ込んでくるのだ。


あたしが得意とした作曲者はショパン。

ショパンの曲が本当に大好きだった。


あたしの指は……ショパンの“幻想即興曲”を弾きだした。


この曲はショパンが死ぬまで発表しなかった曲だ。
しまいには、死ぬ前に『発表するな』とも友人に言った。

仮説としては……この幻想即興曲はベートーベンの“月光”に似てしまったから、とも言われている。

あたしは月光より幻想即興曲の方が好き。

どんなに弾いても難しい曲だけど……


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