苦い舌と甘い指先
あたし…夏輝の事忘れて、人の彼氏に触れようとしてた。
応援してるふりを精一杯やって、何度も諦めようとして
それなのに触れたいとかマジ変態くさいんだけど。
でもさ
盗み見た肥後の顔が今まで以上に優しく思えて
泣きそうになる位胸が締め付けられて
どうしていいのか分からない。どうすれば苦しくなくなるのか全然分からない。
取り合えず罪悪感だけは感じたので手を引っ込める。…と。
「俺に触れる勇気が無い?」
「……は?」
ピタリ、と歩みを止める。
薄くて整った肥後の口がゆっくりと開き、白い息と共に口から吐き出されたのは
「おいで。キミからここに」
自信たっぷりで余裕な台詞だった。
馬鹿じゃねぇの?こんな人通りの多い場所で長い腕広げてさ
しかも何?やっぱナルシーなワケ?超キモいんですけど。キザ過ぎて引くんですけど!!
それにさ、夏輝の事、お前どうする気だよ。お前にそんな気はなくても、あたしらの事知ってるやつがもし見てたら、誰にばらされるか分かったもんじゃねぇんだよ。
マジうぜぇ。
マジキモイ。
それでも彼に向かってつま先を向けて、ゆっくりと肥後の前に立った。そしてその広い胸に頭を預ける………。
ふわり、と温かい腕があたしを包み込んだ。優しい香りが鼻を擽る。
強く強く、それこそ折れそうな位強く抱きしめられながら聞いた言葉は
「…やっとつかまえた…!!」
肥後にしては珍しく、泣きそうな位震えていた。