苦い舌と甘い指先
あと一人
その日の夕方、ミツがあたしの家に遊びに来た。
「肥後の事で話がある」
そう言って上がり込んだその手には、きちんと手土産が握られていて。
ミツの律儀さが良く伝わって来た。
「それ、あたしの好きなビーフジャーキーだろ」
「……美術室で、怒鳴っちまったからよー。ギクシャクしてたじゃん?
和解のシルシに、って事で」
「…分かってるよ。あたしも悪かった。
お前の言う事に間違いなんて無いもんな」
取り合えず上がれ、と、部屋にミツを通す。
途中母ちゃんが『今日も食ってくでしょ?カレーだよ』とミツに笑いかけ、ミツが『食う食う!沢山作っといて!』なんて無邪気に笑ってたけど。
話って、何だ?
でもまあ、この様子だと別に大したことは無いんだろう。
ダークブラウンの扉を開け、モノトーンで統一された部屋に入る。
ぬいぐるみの類が一切ないあたしの部屋は、普通の男よりも男らしい部屋かもしれない。
冬にはコタツになるテーブルに、貰った大量のビーフジャーキーをばら撒いて
「その辺座れよ」
早速封を切りながらミツに指示を出した。