苦い舌と甘い指先
「光成(ミツナリ)、残さず食えよ」
「へーい。言われなくても」
ミツの事を光成ってちゃんと呼ぶのはうちの母ちゃん位だ。
武将の名前をちょっと変えただけと言うその名前は、何だかミツには勿体ないと言うか、名前負けしてる様に思えるが。
まあ、それを言ったらあたしも名前負けしてるのは違いない。
「珠乃(ジュノ)。おら、突っ立ってねーでさっさと座れ」
「はーい」
あたしの名前は、神話の中に出てくる、女性の結婚生活を守護する神から取ったとか何とか。
そんなさ、誰も知らない様なコアな名前なんて付けてもカッコ良くねーっつーかさー…。
付けてくれた母ちゃんには悪いけど、もうちょいフツーの名前にして欲しかった。
こんな可愛い名前、自分が女だって改めて気付かされるみたいで、なんかこっぱずかしい。
勿論言ったら殺されるので言いませんが。
「いっただっきまーっす」
「おーおー。いっぱい食え!」
母ちゃんは笑いながら、換気扇の前で煙草を吸い始める。
…マジでヤンキーの名残が…。
……でもさ、うちの親父と出会ってから、ホント色々と柔らかくなったらしいんだ。
何が起きたとか、出会いはどうだったとかは二人とも話さねぇけど
母ちゃんは親父の前では、すっげぇ可愛く見えるんだ。
あたしもこんな風に、自分を変えてくれるヤツと出会えたりすんのかな。
そんで一緒に変わって行けるようなヤツが…。