苦い舌と甘い指先
「…別に、泣きそうになってたわけじゃない」
ただ、ショックだったってだけだ。
ミツですらあたしの事を忘れてしまうんだ、と思ったら
なんか寂しくなっただけで…。
「……でも、せっかくだから貰ってやる」
両手を差し出すと、コロン と二つ、手のひらに転がった。
「飴?」
「…そ。俺のマストアイテム。
ちょっと苦いけど、何か落ち着くんだよね」
言いながら、手のひらの中のそれを一つつまみ、中から茶色の粒を取り出す。
「口、開けて」
「…いいよ。自分で食う」
「良いから良いから」
そう言って、無理やりあたしの顎を掴み、親指で歯列を割る。
「へめ…っ!!やめろ…っ」
舌先も一緒に抑えつけられて、思った通りの言葉が出ない。
それを良い事に、肥後は益々顔を近づけて卑猥に笑う。
「…じっとしてないと
飴玉以外のモノも入っちゃうかもね」
「……なっ」
言った瞬間に、口内に苦みを含んだ物体が転がり込んできた。
「……コーヒー味」
「うん。あんまり甘くなくて美味しいでしょ」
「……まぁ。甘くないもんなら何でも好きだし」
舌先で転がすと、香ばしい香りと苦みが
より一層広がった。