苦い舌と甘い指先
それから下駄箱まで一緒だったけど、何話したのか覚えてない。
どんな話題でも何だかテンパっちまって…。うん、とか、はぁ、とかしか言って無かった気がするけど、肥後はそれでも上機嫌だった。
そして、内履きに履き替えながら、何を話してたのか、一生懸命思い出していた時だ。
先に履き替えた肥後があたしの元にとっとっとやって来てニコリと笑う。
「じゃ、今日は一緒に帰ろうね」
「はぁ…。……え?何?」
「もうっジュノは可愛いなーッ!!じゃ、放課後、教室で待っててね」
「は?」
上の空だったせいで、何だかとんでもない約束を取り付けてしまったようだ。
抗議する間もなく、肥後は逃げる様に階段を駆け上がって行ってしまった。
「……何だかしらねぇが、逃げれば良いよな、うん」
ヤツが来る前にさっさと帰ってしまえば良い。
そう思って教室に向かったのだけど……。
予想だにしない出来事のせいで、その計画も失敗に終わるなど
この時のあたしには思いつきもしなかった。