苦い舌と甘い指先
ミツや肥後に対して、あたしがどう思ってるかなんてこの子に分かる筈はねぇけど
それでも好きだとかそういうんじゃないって事ぐらい察してもイイと思うんだけど。
「…とにかく、話がそれだけなら、あたし早く帰りたいんだけど。
それに、ホントに好きならあたしなんかに構わず、さっさと告白でも何でもすりゃあ良いじゃん」
じゃ、と言ってドアノブに手をかけたのだが。
「無理だよう!!」
華奢な身体のどっから出てんだって位に、力強くあたしの腕を掴んで離さない夏輝。
その顔は今にも泣きそうで、まるでおもちゃを買ってもらえない子どもみたいな顔してた。
「トシはみんなに優しいし、こっちが好きって言っても『俺もだよ』とか言ってはぐらかされるしっ
ミツは鈍感過ぎって言うか、ジュノちゃんの事ばっかり見つめててあたしの入る隙間なんてこれっぽっちも無いんだもん……。
だから、ジュノちゃんに協力してほしいの。
ミツはともかく、トシがこんなに一人の女の子に入れ込む所なんて見た事無いんだもん」
…胸の奥から熱い何かが広がって スッと消えてった。
それに気付かないフリをして、思いつく単語をぎこちなく繋げる。
「…肥後は…、スキとか言ってくれるんだろ?
なら、もう両想いなんじゃねぇの!ミツは浮いた話も無いし、そういうのは苦手なんじゃ…」
もうヤってるくせに、好きも嫌いもねぇよ と腹の底で呟いた。
……いつも吐いてる毒舌なのに、この時だけはたっぷりと余韻を残して消えてった黒い想い。
いつもの無関心な時に思う事と大差ないのに
何でか分からないけど…なんか
胃がツキツキと痛むくらいに
その言葉は身体を蝕んでいく感じがした。
染められる。感情に。
黒く、黒く。