苦い舌と甘い指先
「じゃあ、トシの事…狙ってもイイ…?」
「…別に。関係ねぇし…」
喉が、その言葉を出すまいと縮こまっている感じがした。
「あたしと肥後は、無関係だ。…アイツも只の暇つぶしなんだろ?」
言ってしまっては認めてしまう事になりそうで
それでも目の前のカワイイこの子の泣きそうな顔を見るのは辛くて
「あたしだってアイツの事、
嫌いだから」
掠れた声で、震える声で呟いて
扉を抜けた。
…言ってしまった。でも認めたくない。
認めたら、あたしは夏輝や他の女と同格だって事になる。
愛だの恋だのに騒いで、ヤった数を競い合って、色んな男に目をやって、誰が一番カッコいいかを品定めする様な
そんな女共とあたしが同格だなんて、絶対に嫌だ!!
でも…それでも……!!
「………あたし、肥後の事……」
夏輝を置いて教室に戻るまでの間
始めて芽生えた“女”としての感情に
視界を涙で埋める程、あたしは酷く混乱していた。
するまいと思っていた事が、もっと大人になってからだと思っていた事が
急に目の前にやって来たのだから。
それが目を反らし続けていた“恋”ならば、尚更の事--------。