苦い舌と甘い指先
この時までは、まだ良かった。
顔も知らないカレシと言うヤツに、大好きなえーちゃんを取られた。
ただ、それだけだったから。
だけど
「…ふざけんじゃないわよ」
母ちゃんに言われて、大量に貰ったみかんをおすそ分けに行った時、偶然にも見てしまった。
「誰が誰と寝たって…?浮気はどっちだって…?」
えーちゃんのママがあたしを部屋に通してくれたおかげで
あの優しいえーちゃんが
「くたばれこのカスがぁあああああ!!!!」
山姥の如く、長い髪をばっさばっさと左右に振りながら
カレシと思われる男を追いかけまわしているのを。
「ひぃっ…!!」
驚きと恐怖とが入り混じって、蚊の鳴くような声で『嘘だ』と呟きながら、首を左右に振り続けた。
それでも目の前の光景が消え去るわけでも無く
驚いた表紙に落としてしまったらしいみかんを蹴り飛ばしながら、急いでえーちゃんの家を飛び出した。
……それからだ。
あたしが愛だの恋だの、そういうものに嫌悪を感じる様になったのは。