苦い舌と甘い指先
「ジュノ」
「あ…」
あたしのトラウマ的過去を振り返っている間に、いつの間にか教室に着いていたようだった。
声の主は、あたしの机に腰掛ける肥後で
「…おいで」
艶めかしい声であたしを呼ぶ。
ふらふらと、明るみを求めて飛び回る羽虫の様に、足がそちらに向かうのは至極自然な事で。
今、一番会いたくないヤツなのに
今、一番会いたかったヤツだと思ってしまう。
「肥後……あたし……」
思わず言ってしまいそうになる口が、憎くて憎くて。
泣き出しそうになるのを堪える事が、辛くて辛くて。
逃げ出したい。でも
絡め取られる---------。
「あたし……っ」
言ってしまえば楽になる。だけど。
「トシ……?」
小鳥の鳴くような、美しい声が、あたしの低い声を遮った。
衝動に駆られて紡ぎだしそうになった淡い気持ちは
その儚さのせいで、あっけなく消えて行く。
「トシ…!!!」
先程まで話していた可愛らしい女の子が肥後に飛び付くのを眺めながら
やっぱり世界は可愛い子を中心に廻ってる
なんて、結構どうでも良い事を考えてたあたしは
やっぱり馬鹿だ。