苦い舌と甘い指先
少しだけ歩みを遅くして、ちらちらと視界に入る二人を遠ざけた。
どうやったって現実は変わらない。
なら、目を背けても良いじゃんか。
それでこの気持ちが、多少でも救われるのなら尚更。
教室に着いた途端、夏樹があたしらを見つけて駆け寄って来た。
「おはようー!」
「…はよ。…幸せそうだな」
「へへへ…そう見える?これもジュノちゃんのおかげだよッ」
皮肉交じりだったのだが、それにすら気付かない程、夏輝は恋する女の目をしている。幸せで幸せで、周りのみんなも幸せにしてあげたい。そんな瞳だった。
案の定夏輝は突拍子もない事を言い出す。
「ところでさ、二人は何で付き合わないの?」
「は?」
意味の分からない事を言う。つか、最近までミツの事も好きだったんだよな?あんた…。
わざわざあたしにどっちか譲れって言って来た位、好きだったんじゃねぇの?
……いや、“どっちか”なんて言う女だ。
本当にどっちでも良かったんだろうな。もしあたしがミツを譲るって言ってればきっと、肥後とくっつけようとしてきたんだろう。
正直、いけ好かない女だ。
「ねぇねぇ。ジュノちゃんはミツの事どう思ってんの?」
「……別に…幼馴染?」
「えー?それ以上の感情は?」
「……って言うか。何で急にそんな事聞くんだ。ミツだってあたしみたいなヤツの事、女として見てるわけ無いだろ」
今まで兄弟みたいに育ってきたのに(勿論あたしが兄だ)、いきなり他の感情は?なんて聞かれたって困るより他に無い。