苦い舌と甘い指先
「おい…。何キレてんだよ。キレるべきなのはこっちだろ?
貴重な昼休みを、お前のワケ分かんねぇ戯言を聞かされるだけになっちまってんだからなっ!!
挙句の果てに、五月蠅い?はァ?誰に向かってそんな口きいてんのか分かってんの?
また股間が縮む様な痛さを味わわせてやろうか?」
こんな強気な発言なんかしちまったけど、ホントはすげぇ動揺してた。
だってさ、目の前の肥後は、あたしが知ってる肥後じゃないんだから仕方が無い。
こんな目で、コイツに見られた事なんて 無かったんだから。
威嚇するつもりで目を合わせていたが、それも限界が来て、つい目を反らしてしまった。
それがヤツにとっての合図だった。
「…自分だけが被害者面して、関係無いフリして、そうやっていつもいつも話を反らす。
何…?ねぇ、何様のつもり?
自分が一番偉くて一番強いとでも思ってるわけ?
そんなの、あり得ないのにね。キミは、自分で思ってるよりも
可愛い可愛い女の子なんだから」
一気にまくし立てながらにじり寄って来る。
「おい、こっちくんじゃねぇ!キモイ!」
「…五月蠅い」
「あっ?」
肥後は一瞬の隙を突いてあたしの両腕を掴み、階段下の掃除用具の収納棚に、乱暴に押し込んだ。
ガラガラとモップやら箒やらが、音を立てて足元に崩れ落ちる。
「…んだよ。ワケ分かんねぇ事してんじゃねぇよ!!退け!帰る!!」
収納棚の扉は開けっぱなしだが、あたしの前には通せんぼをする肥後が居た。
蹴ってやろうと足を上げたのだが
「五月蠅いって言ってんの、聞こえない?」
あたしの太ももをがっちりと掴み、それ以上動かない様に、更に上へと上げてくる。