苦い舌と甘い指先
「ジュノ…。本当は君、」
悲しい表情のまま、何かに縋る様な声で
肥後が何かを言おうとしたのだが
「ジュ---ノ-----!!!」
突然聞こえて来たあたしを呼ぶ声のせいで、その続きを耳にする事は出来なかった。
「……この声…、キミの幼馴染の声、だね」
「…あ…」
この声、ミツか…。あたしを探しに来たのか?
まぁ、購買に行くって言って出て来たっきりだから…。
肥後は口元に笑みを湛え、元の表情に戻る。
「…叫ばないの?」
「……こんな姿、見せるわけにはいかねぇだろ」
「それもそうだね。…じゃ、俺は行くよ」
「え…?」
そう自分で言ってしまってから、物凄く後悔した。
何故驚く事があるのだろうか。
犯罪すれすれのこの行為からやっと解放されるのに
本気で怒っていたのに
何でだ
離れる事が、凄く不安に思えてしまう。
「……どうしたの?続き、して欲しかったの?」
きっとそれは、肥後の儚く消えてしまいそうなこの表情のせいだ。
だから、ほら。柄にも無い事を言ってしまうんだ。
「…お前……居なくなったりしねぇよな?」
馬鹿みてぇに震えた声で、いっちょ前に女みてぇな事を。