苦い舌と甘い指先
「だーーーっ!!何やってんだよ!火事になるっ」
慌てて煙草を拾い上げ、玄関のタイル部分でもみ消した。
幸い廊下には焦げ穴などは開いていないようだ。
安堵と呆れから、大きなため息をつくと
「あんた…どうしたんだよ……」
「…どうしたって?」
未だ放心状態のかあちゃんの口から、魂が抜けた様な声が聞こえてくる。
「今まで勉強なんてやらなかったくせして…受験だって一夜づけすらしなかったし……」
「…うるっせーな」
「そんなあんたが!期末考査ごときで勉強!?
しかもガッコ行ってまで勉強!?
……あー…駄目だ。コレきっと妄想だわ。つか、熱?
よし、今日のバイト休もう……」
「うるっさいってばよ!!」
んだよ!人を何だと思ってんだ!
額を抑えてふらふらと寝室に入っていくかあちゃんに、苦笑いを含んだ文句を叫んでから家を後にした。
が。
「…じゅ……っ
ジュノが勉強してる……!!」
ガッコに行っても反応は同じだった。
ミツなんか、口に手を当てたまま白目剥いて倒れたし。
HRで入って来たセンセーすらも
「……悩みがあるなら相談に乗るぞ?…家庭の問題か?」
なんて、憐れみを大いに含んだ瞳で言って来やがるから、ホントにテスト中に校舎の窓を割って回ろうかと思った。