苦い舌と甘い指先



「だーーーっ!!何やってんだよ!火事になるっ」

慌てて煙草を拾い上げ、玄関のタイル部分でもみ消した。

幸い廊下には焦げ穴などは開いていないようだ。


安堵と呆れから、大きなため息をつくと


「あんた…どうしたんだよ……」


「…どうしたって?」


未だ放心状態のかあちゃんの口から、魂が抜けた様な声が聞こえてくる。


「今まで勉強なんてやらなかったくせして…受験だって一夜づけすらしなかったし……」


「…うるっせーな」


「そんなあんたが!期末考査ごときで勉強!?

しかもガッコ行ってまで勉強!?


……あー…駄目だ。コレきっと妄想だわ。つか、熱?

よし、今日のバイト休もう……」



「うるっさいってばよ!!」


んだよ!人を何だと思ってんだ!


額を抑えてふらふらと寝室に入っていくかあちゃんに、苦笑いを含んだ文句を叫んでから家を後にした。




が。





「…じゅ……っ


ジュノが勉強してる……!!」



ガッコに行っても反応は同じだった。


ミツなんか、口に手を当てたまま白目剥いて倒れたし。


HRで入って来たセンセーすらも


「……悩みがあるなら相談に乗るぞ?…家庭の問題か?」


なんて、憐れみを大いに含んだ瞳で言って来やがるから、ホントにテスト中に校舎の窓を割って回ろうかと思った。



< 94 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop