苦い舌と甘い指先
「あ」
「…?」
知っている声が頭の上から聞こえて、地面と向き合っていた顔を上げる。
「…あ。」
考えるより先に出た驚きの声。あたしを見下ろすようにして立っていたのは、今最も会いたくないカップルだった。
「夏輝…と、肥後」
「ジュノちゃん、担任が目に見えて項垂れてたよ?何したのー?」
「…いや、勉強の件で、的外れな心配されてただけ……」
夏輝の顔がまともに見れず、肩のほこりを払うふりをして視線を右に向けた。
「ふーん?そんなにジュノちゃんが勉強する事がおかしかったのかなー。
ミツも白目剥いて驚いてたもんね。…何で勉強なんか始めちゃったの?」
まさか夏輝に言う訳にもいかない。ここは当たり障りのない答えを…
でも、何だ。何言えば……
「勉強でもして無いと、好きな男の事考えちゃうから、トカ?」
「あー、そうそう。実はー…」
ん?何?
「えーーー!?ジュノちゃん好きな子居るのー!?誰誰ッ!?」
「え゛!ちがっ…違うから!!」
両手を顔の前で左右に激しく振って否定する。さっきの声、肥後だ!!
「えー…?」
夏輝は不満そうにしていたが、あたしの必死さに最後は折れてくれた。
しかし、何で肥後が。よりもよって肥後が、だ。あたしの考えを当ててしまうのだろう?
もしかして、ホントは好きだって事、分かってんのか…?
「あ、ミツだ」
おーい!と夏輝が校舎の方を向いた隙にチラリと肥後の顔を見上げてみた。