苦い舌と甘い指先
「………」
あれ。睨んでた、よな…。
もう一回……。
「…!」
うん、やっぱりだ。肥後はあたしを睨みつけてる。
何で?あたしの気持ちに気付いてるなら、もう少し愛想良くしても良いだろうが…。
……いや、気付いてるから、か…?
もう、あたしの事なんて眼中にないから。だから迷惑なだけってか?
そう…だよな。肥後にはもう夏輝が居るんだもんな。
静かに溜息をつくと、肥後の冷たい声が静かに降って来た。
「……ホントに、イライラする女だ」
「……は?」
驚いて、今度はちゃんと顔を見上げる。でも…肥後はもう、夏樹を優しく見つめていた。
何だ、ホントに嫌われたのか………。
「…馬鹿みてぇ…」
あれだけ嫌悪していた恋愛に、ものの見事にハマって振りまわされてる自分が、だ。
「…イライラするんだよ」
また涙腺が緩んで来た自分に、だ。
ブレザーの袖口でこっそり涙を拭って、顔を上げた。
「ミツー!!おっせぇんだよ!走って来い!!遊びに行くんだろー!!?」
「ぅわっ!びっくりしたーー!!」
突然叫んだあたしに夏輝が目を丸くする。
「…あれ、ジュノ?…勉強は?」
ミツが遠くの方で困惑した声を上げている。
「ンなもん、するかよ!今日は何?カラオケか?」
「え?いや…ジュノが行きたい所ならどこでも…」
「なら走って来いよ!!行くぞ!」