kiss me PRINCE!!
「お母さんがそういうことに厳しかったから、私も直そうとした時は大変だったよ。前に私が左利きだったことを言ったと思うけど、あれもお母さんからのスパルタ指導で利き手を替えたの」
亜美の口から“お母さん”という言葉を聞くことが初めてだったからか、なんだか少し違和感があった。
転校してきた理由が家庭の事情、しかも亜美は両親と一緒に住んでいないらしいということに、すでに気づいていたからかもしれない。
「亜美のお母さんって厳しいんだ。優しそうなイメージ持ってたけど」
「優しかったよ。でも、厳しかったの」
なんとなくわかる気がする。
亜美は甘やかされて育ったお嬢様なんかじゃないから。
「ふーん。亜美とは似てるの?」
「似てるって言われる。私のお母さん、すっごく綺麗だったんだよ」
「それって自分のことも褒めてない?」
あたしは笑ってた。
だから、気づかなかった。
“厳しかった” “綺麗だった”
亜美の言葉が、過去形であることなんて、まったく気づいてなかったんだ。