kiss me PRINCE!!

バレンタインを目前にしてもまだ、あたしは自信をつけられずにいた。

ヒロの隣に立つ自信じゃない。

亜美に勝つ自信でもない。

あたしがあたしらしくいるための自信が、持てていなかった。


劣等感とか嫉妬心とか、そういうものに急き立てられてする告白じゃなくて。

その結果がどうであろうと、いい恋愛だったって思えるための材料がないんだ。


それでも、このまま生ぬるい関係でいる方が嫌だから。

やるしかない。


そう思っていたところでいきなりヒロの声がしたから、あたしはかなり驚いた。


「亜美ちゃん、なにをおいしく作るの?」


それは、バレンタインは頑張っておいしく作るね、とあたしに言ったことへの質問だった。


「秘密だよ」


人差し指を唇に当てて、にっこり笑う亜美。

そんな動作、あたしがやったらわざとらしくて似合わないし、想像しただけで鳥肌ものだけど、どうして亜美はこんなにも自然にできるんだろう。

これが自分を可愛く見せるための演技なら、亜美は女優になった方がいい。

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