僕の忠犬ハチ公
その場所は俺の三年五組から三クラス離れている三年二組の教室だ。
俺は二組の教室まで行くと、開けっぱなしの引き戸から中へ入る。
教室には窓枠に頬杖をつき、はやくも夜の暗い青が混じりはじめた、冬の空を眺める一人の女子生徒がいた。
小柄で、きれいに一直線に。切り揃えられたおかっぱ頭が特徴的なその姿。
「小梅」
俺がその名を呼ぶと、肩がピクッと反応し、振り返り姿を見つけると、とてとてと小走りで駆け寄ってきた。
「真君」
不意にさっきの利光の言葉を思い出す。
名前を呼ばれ、笑顔で嬉しそうに駆け寄ってくる姿は、たしかに犬のようかもしれない。
尻尾があったら、はち切れんばかりに振ってそうだ。
「プッ」
そんなことを想像していると、思わず笑いが漏れた。
「真君どうしたの?」
俺の元へと到着した小梅が、不思議そうに首を傾げて俺の顔を覗きこんでくる。
「なんでもねぇよ。さてと、帰るかぁ」
俺はごまかすようにのびをすると、踵をかえして歩きだした。
「あ、待って」
小梅もあとに続く。