ヌードなアタシ
『たいしたものだわ…
カメラが回り出すと顔つき変わるんだもの。
人格まで変わるのかしら?』
長沢さんはクスっと笑って
アタシの隣に座った。
『あははっ…。
アタシ、本を読むのが好きで…
小さい頃から。
現実逃避癖があるんです。
本の世界に没頭すると
登場人物の性格や状況に入り込んで
なりきってしまうんですよね。
モデルのお仕事も似ています。
今の自分を何処か別の場所に押し込めて
作りあげたイメージ像になりきるの』
『えぇ、そうね…
私はファッションモデルしか経験ないけど
確かに…
服のデザインの中に込められた
デザイナーのコンセプトに沿うように
服に合わせて自分を演出するわね』
『レンズの向こうには
アタシの大好きな…恋人がいて
あっ、想像の…ですけど。
その理想の素敵な彼が
優しく見つめてくれているの。
アタシはドキドキして、
恥ずかしくて、でも幸せで…
彼を見つめ返して笑うんです。
…レンズの向こうの彼を』
瞬くんの事を思うと
切なくなるのは分かっていた。
でも、楽しかった頃の
ふたり過ごした頃の記憶に
一瞬、無意識に戻ったのは確かだった。
アタシは恋をしていたんだと
撮影中、改めて思い知らされた。
アタシ…あんな顔して笑ってたんだ
瞬くんに。