ヌードなアタシ

ビル風は、熱されたアスファルトの湿気や
建物に囲まれてる淀んだ空気を
巻き上げて分散させる。

卓己くんの背中につかまり
自転車の後ろに乗った。

体じゅうをなぞっては離れていく
幾分冷気を帯びた夜の風を
アタシは心地よく感じる。



別れ際に奈緒が言った言葉を思い返した…



『瞬くんの事…好きだったの。
本当に…。

こまちちゃんの彼じゃなかったら
好きになってなかったのかな…

わかんない。

わかんないけど…
わたしだけを見て欲しかった。

こまちちゃんと会ってると思うと
許せないほど切なかった。

瞬くんを奪ったつもりでいたの。
でも…奪われたのはアタシの方かな。

自分自身をコントロールする事さえ出来なくなって
サヨナラ言った…

このままだと苦しいんだもん。

瞬くん、やさしいけど…

瞬くんが見ているの、私じゃないから。


こまちちゃんとは…
もう、親友に戻れないよね。
…後悔してんだ、今になって。

うふふ、ほんと私って馬鹿だよね…』


奈緒はそう言い残こし
寂しそうに笑って店を出て行った。


『…もう、戻れないのかぁ』


言葉に出すと現実味が増した。

卓己くんの小柄な背中
こうやって間近だと意外に広くて
安心するというか…頼もしい。


『えっ?なに?』


すぐそばで響く声も
普段よりずっと低く聞こえた。


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