屍の孤島
とりあえず追っ手のゾンビは撒いた。

早く行かないと…この異常事態の原因となった地下水の源、『井戸』へ。

小野寺や夕映、秀一といった面々が命懸けで、或いは命と引き替えに得た真相を、実は梨紅は最初から知っていた。

港でゾンビに遭遇した瞬間、彼女はもしやと感じていたのだ。

梨紅はあの連絡船に乗っていた乗客の中で、唯一の陰島出身者。

それ故にこの島の50年前の事件の事も知っていたし、操舵手の老人が歌っていたあの歌の意味も知っていた。

『井戸水いなすな、腐れて死ぬる』

あれは井戸から汲み上げた地下水をいなすな(飲み込むな)という意味。

『腐れて死ぬる』はそのまま、肉体が腐って死んでしまうという事。

つまり、ゾンビ化する事を意味する。

この島で50年前に起きた、死体が起き上がって人間を襲うという事件。

あれは地下水を知らずに飲んでしまった島民がゾンビ化した事により、起きた事件だったのだ。

あの事件を境に、地下水の使用禁止は島民の暗黙の了解となり、戒めの為に歌が歌い継がれるようになったのだ。

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