屍の孤島
小野寺はその光景を絶句したまま見る。

精神科医とはいえ、彼は医師だ。

その医師の目から見て、老人に噛み付いた島民の男は明らかに異常だった。

白濁した眼球、土気色の肌。

どちらも健康な状態の人間のものではない。

もっとわかりやすく言うなら…緩慢且つぎこちない動き。

あれは…死後硬直による関節の硬化のせいではないだろうか。

つまり、あの男は生物学的、医学的には『死体』。

既に死んでいる人間なのだ。

だからこそ絶句する。

死んでいる人間が何故立って歩くのか。

何故立ち上がって老人を襲うのか。

混乱した頭で幾ら考えを巡らせても、真っ当な答えなど出る筈もなく。

「きゃあぁぁあぁぁああぁあっ!」

彼は梨紅の甲高い悲鳴で、ようやく現実逃避から戻ってくる事ができた。

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