屍の孤島
ゾンビだって?

死んだ人間が生き返って、生存者を襲うだって?

子供じみた空想が現実になっている事に、鏑木は内心苦笑いする。

何とも馬鹿げた御伽話の中に迷い込んだものだ。

まぁどちらでもいい。

歩こうが横たわっていようが、いつも見慣れた死体には変わりない。

フェリーターミナルで俺を殴ろうとした、あの熱血直情坊や達には荷が重いかもしれんが、俺にとってはいつもの殺しと大差ない。

こんな異常事態の渦中にあってさえ、鏑木の冷静さは微塵も損なわれる事はなかった。

こんなもの、あの時に比べれば感情を1ミリも動かす要因にさえならない。

…鏑木の脳裏をフラッシュバックする、一人の女の儚げな表情。

「チッ…」

鏑木は軽く舌打ちした後。

「失せろ」

細い砂利道の向こう側から歩いてきた数体のゾンビの額を的確に射撃。

それぞれ一発で行動不能にした。

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