屍の孤島
激しい銃撃を繰り返しながら、出血多量で薄れかけた鏑木の脳裏に過去の記憶か蘇る。

…元々は身寄りのない高校生だった沙耶。

鏑木は気紛れにそんな沙耶を拾って、殺し屋として育てた。

この世の中の何物をも信用していない眼が気に入っていた。

幼き日の自分を沙耶の中に見た。

そんな沙耶も、鏑木にだけは信頼を寄せるようになった。

その信頼が慕情になり、愛になるのには時間はかからなかった。

鏑木もまた、自分の心に温かい感情が宿り始めた事に気づく。

いい女だった。

その美貌も、スタイルも、聡明さも、時折見せる従順さも奔放さも。

何もかもが鏑木を魅了するほどの女だった。

鏑木は惚れ込んでいた。

非の打ち所など何一つない女だった。

…ただひとつ、彼と同じ『殺し屋』である事を除けば…。

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