屍の孤島
思うに、沙耶を拾って育てるべきじゃなかったな。

口元の血を拭いながら、鏑木は薄く笑う。

グロックを投げ捨てた。

既に弾丸は尽きたのだ。

傷の痛みと失血でよろめきながら、造船所の隅に置かれたドラム缶にもたれ掛かる。

そんな彼を追い詰めるように、にじり寄ってくるゾンビ達。

撃っても殺しても際限なく溢れ出てくる亡者の群れは、まるで地獄から沙耶が迎えを寄越したかのようだ。

こいつらはお前が送り込んだのか、沙耶?

そんな事を心の中で問いかけてみても返事などある筈もなく。

「まぁいいか…」

鏑木は右手でポケットからマルボロのケースを取り出し、一本咥えた。

続いてダンヒルのライターで煙草に火を点ける。

…腐臭で充満する造船所に漂う、紫煙の香り…。

「真相は直接地獄で問い質すとしよう…」

彼はそう言って、吸いかけの煙草を背後のドラム缶の中に落とす。

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