幕末純想恋歌
「ご家族は?」

「父も母も幼い頃に死にました。顔も覚えてないです。それから兄に育てられたのですが、兄も去年死にました。だから今、家族はいません…。」


話しているうちになんだかとても悲しくなってきた。

自分はこの時代の人間ではない。

家族もいない。

帰れる保証もない。

どことも繋がりがない。


半端な存在。


今は、新撰組でお世話になっていて、みんな親切な人ばかりだけれどこれから先は…、分からない。


涙が浮かんできた。


「ごめんなさい!!こんなこと聞いちゃって…。本当にごめんなさい」


顔にもろに出ていたようでお梅に気を使わせてしまった。


「…それで、こんなところで働いているのか…、…ふむ…」


芹澤が何か思案しだした。


「そうだわ!!私がお母さんになってあげる!!芹澤様がお父さん!!そうだわ、それがいい!!ねぇ!?」


お梅が顔を耀かせて言う。

「名案だな。それががよかろう。これからは、わしらを、親だと思え。いいな?」


「っ!?…お父さん…と、お母さん…?」


「そうよ、そうよ!!お母さんよ!!ほんとは、お姉ちゃんでもいいかなぁとも思ったんだけれど、お母さんもいいわね!!あなたは今日から私の娘よ!!」


「…わしもいるぞ」

お梅は喜び、芹澤は苦笑のような、けれど優しい表情をしていた。


涙がが溢れてきた。

しかしこれは悲しみではない、嬉しさからのものだ。

「…ありがとうっ、…ございますっ…」


兄にねだって困らせたこともあった。

幼なじみがとても羨ましかった。


ずっとずっと欲しくて、求めて、手に入らなかったもの。


それが、今、手に入った。

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