幕末純想恋歌
「……女。……何者だ。」

逆光になっていて顔はよく見えない。

だけど、なのに眼だけが力を持って射ぬいてくる。

「…もう一度聞く。何者だ。」

「あ、あの、…わ、わたしは……。」

聞かれているだけなのに、刃を首筋に突きつけられているような気がする。

背筋を冷たい何かが流れていく。


「わ、わたしはっ………」


聞かれていることに答えなきゃと思うのに、男から発せられる何かに押しつぶされそうで、呼吸をすることさえ難しい。


「…昨日から、こ、こちらで、女中をさせていただくことになった……菖藤葵と、いいます…。」

「…女中だと?」

訝しげにこちらをみてくる。

「は、はい。」



もう限界と思ったそのとき、

「葵ちゃ~ん、洗い終わった?遅いよ~?」      
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