【短編集】涙の流れるその原因に
「んじゃ、俺行くわ」
ふんわり笑う彼。
こんなふうに笑うとき、いつも思ってた。
彼は桜なんだと。
「いってらっしゃい」
上手く言えてたなんて問題じゃない。
かすれてたのなんて自分でもわかる。
その証拠に彼は困った顔をした。
「ひなた、泣くなって。そんなに俺のこと好きか?」
売り言葉に買い言葉、好きと言う寸前。
もっと困った顔を見たくなかったから言わなかった。
勇気がなかったんだ。
ふ、と彼は笑って
「じゃあな」
まだ、彼の唇は言葉をかたどって。
でも、強い風に、春を告げる使者に遮られて。
目を瞑った一瞬に、彼は消えた。
つぼみが、ひとつ、花開く。
「また、会いにくるから」
end.