彼女に捧げる新世界
顔がなかった………。
なんど瞬いても同じで、人の姿なのに顔がない。
話していたはずなのに声もない………。
どうして………?
ニル?
ミラはこの景色が何を訴えていて、何を求めているのかわからかった。
こんな景色を見ていたら…………自分の大切な記憶が塗り替えられてしまう。
必死に思い出し、彼の姿や仕草、声も表情も、芳しい百合の香りも記憶に留めたい。
ニルはあんな化け物の姿じゃない。
鋭い爪も鳥のような嘴も鱗もない。
違う、
彼の本性は人。
整った顔に痩身の男。宝石みたいな金緑の瞳で、筋肉はあんまりないけれど力強い腕。
笑むことは少ないけど、たまに少しだけ笑ってくれる。
誰よりも大切にしてくれる優しい人………。
わたしに世界をくれた人。
私の大切な記憶を汚さないでっ!!
ニルは化け物じゃない!
ガラスが割れるように視界にひびが入り、ピシッと音がした瞬間に崩れた。