彼女に捧げる新世界
瞬く間にその景色になる視界に驚きながらも、安定した地に足がついた。
北の地の底は魔力に満ちて真昼のように明るく、視界には困らない。
スッと息を吸うと、噎せかえるほどの百合の香りが全身を満たす。
包みこまれるような香りにドクンと胸が鳴った。
「ニル…………?」
掠れた声になってしまったけれど、確かに届いたはずだ。
塊が動いたから………。
ミラに反応するように起き上がる塊は彼らしくダルそうで、少しだけ体の硬直が弛んだ。
ミラから見えるのは後ろ姿で顔はわからない、逸る気持ちを抑えて彼の反応を待つ…………。
「………何の用か?異なる者……?」
「え……?」
振り反ることなく紡がれた言葉に体温が下がる。
彼はそのまま続けた。
「ここはお前のあるべき世界ではない、立ち去るなら追うことはない………。
立ち去れ」
冷たい言葉は彼をまったく感じさせない。
その声さえも記憶とは少し違うものだ…………。
「ニルだよね……?魔王、わたしだよ?
ミラよ……?」