彼女に捧げる新世界
小さく細い指先を握り、もう片手で優しく撫でる。
この指が自分を握り返したのがひどく昔に思えた………。
あの笑顔も、声も………。
今はないんだ。
手を握りながらうつむき、いろいろな事を考えた。
その瞬間、ほんのりと明るかった光が消える。
停電………?
暗い中でも見える自分にはあまり被害はない、けれどエルファリアのシステムには大きな影響が考えられる………。
些かの不安を感じながら予備電力の供給を待った。
ものの数分で灯りが灯る。
その瞬間、
意識を奪われた。
「………カイト」
固く閉ざされたはずの瞼が震え、瑞々しい瞳が光に収縮する。
長い睫毛が上を向き、ゆっくりと数回瞬くとぎこちない笑みを向けられた。
「久しぶり、だね………」
!!!?
どうして…………?
なぜ………?
何が起きたのかを理解出来ずに硬直するカイトを彼女が笑った。
「そんな顔………初めて、嬉しいよ」
ああ、本当に………。
昔は何も思わなかった世界はこんなにも美しい。
空気の匂い、彼の香り、肌に感じる温度………光が。