彼女に捧げる新世界
飛ぶ、
そう思ったときにはぐにゃりと視界は歪み、手に力をこめて握った。
小さな白い花がさく丘からは海が遥か下に見える。
丘に見えたなだらかな場所は高い高い崖の先で、その高さは人がゴマくらいに見える高地。
どこに飛んだのか全くわからない。
考えても頭の中に地図は存在せず、見たこともない場所で、ミラは不安げにニルを見上げた。
「ここ………どこ?」
高い所はやっぱり怖くて、彼の手をギュッと握る。
ニルはミラを見つめ、何かを示すように前を見た…………。
視線の先には崩れかけた石がある。
ニルが見ているのもおそらくそれで、それが何なのかわからない彼女の頭に短いキスが落ちた。
「俺の、俺が人だったころの人間が石碑に話しかけていた。
その下には大切な人が眠っていて、早すぎる死を悼んでいたんだと思う」
俺にはわからない感情の渦。
的確な言葉はなくて、ただ………痛みに似た激しいものを感じた景色。
「それは俺を形作った母だったそうで………、
命を削り、子を産んだ人だった。
人にとって母は唯一の、一番の理解者、最愛の者か」