彼女に捧げる新世界
「お陰様でね。」
フン、とカインは鼻で笑いながら生意気な子供のような目を向けた。
「つまんないヤツだねぇ、吠え面を期待したんだけど?」
「むかつくけど俺はミラと早く二人っきりになりたいから帰れ……」
ニルは苛立ちを抑えた声で告げ、扉ではなく窓を指差す。
実際は彼らにとって障害にもならない扉はこの際無視でもいいとして、窓を指すのは彼なりよくない配慮だろうか。
揉め事は困るとヒヤヒヤするミラに構わずカインは大げさに肩を落とした。
「帰れないんだよ~」
出来るならそうしたいと言わんばかりに情けない姿は初めてで、二人して驚いた。
「聞いてくれ、あれは…「聞きたくない帰れ」
武勇伝を語るようにしていたカインを勢いよく遮ったニルが彼の肩を押し退けてミラを庇う。
視界を遮られたミラはニルの背後から少しだけ顔を覗かせ、気遣うように見つめると芝居のように眉を寄せて悲しそうな目が合ってしまった。
「妻に………エリーに追い出された。世間で言われてる別居中、このままじゃ熟年離婚になりそうだ!」
「「……………」」
熟年離婚………?
別居中?
言葉を失う二人にカインは捲し立てる。
「困ったことだと思わないかい?魔王を悩ませるなんて流石私の妻なことはあるさ、だが!
エリーはわかってないんだ、嫌われるなんて私にとってショックなことじゃない。
むしろ出ていけと言われた時、ひどく興奮したさ!!!」
どこからか舞い上がる紙吹雪。
出ていけと言われて興奮、彼の考え方はやはり想像を絶するものだ。まったく理解出来ない嗜好に空いた口がふさがらない。
「エリーの機嫌をどこで損ねたのかはわからない、だがそれを聞くのは安易すぎる。
彼女は全く神秘的でいけないね………、
想像力を駆り立てられてしまうなぁ」