彼女に捧げる新世界
現代社会はとにかく面倒くさい。
と、高級車の後部座席に座る男は景色を見ながら思った。
黒のスーツに革靴、ネクタイにワイシャツ、携帯電話に携帯端末機、護身用の銃………。
職務上スーツは欠かせないし、仕事は毎日山のようにある。
愛想は多少使うし、人間関係はさらに複雑だ。
休暇前の仕事を全て片付け、昨晩から一月ぶりの休日だ。
何故スーツを着てしまったのかは不明だが、いつもと同じ装い。
私服はあまり着ないな、と今更ながらも思う……。
車外の景色がだんだん緑に溢れていく。
都市から離れた証拠だ。
これから向かうのは磁場が狂う樹海。
現代でも解析の出来ない不思議な力が満ちる所。
様々な科学者もお手上げかつ、最高の知識を持つコンピュータさえアンノウンと表示する地。
周辺の人々は神の住む森と呼ぶらしい………。