彼女に捧げる新世界
車内は快適だ。
かなり風をきっているにも関わらず、肌に感じる事はない。
温度も適温で、湿度もちょうどよい。
それに、
なんと言っても静かだ。
発進した時も驚くほど静かで、部屋の前に現れた時が嘘のようだ………。
後から聞くと、あれはわざとしただけだったらしい。
緩やかな坂道を下る時は胆が冷えたが、難なく通過していき、彼の運転に拍手を送った。
彼からすると、これくらいは免許の取り立てでも出来る、と軽く流して前を向いたままだった。
窓から見える景色は、想像を絶する。
天を突くような高いもの、鏡のように反射する窓、
緑の少ない町並み、
血管のように広がる道。
考えた事もない景色に足がすくんだ………。
黒っぽいキッチリとした服を纏う人々は小さな機械をいじったり、耳に当てて話していたり、長い線を繋げていたり………。
皆、他者に関心がなさそうで、一人で進んでいる。
若者は2、3人で話しているが、片手は小さい機械を握っていた………。
人がたくさんいるが、意識はまったく別に思える。