彼女に捧げる新世界



コクコクと頷くと、彼から笑みの気配がした。


「ここの連中でまともな人間は一握りだ………。

利用している部分もあるが」


ここを………?

彼が……!?


青い顔をしたミラにクッと喉を鳴らした。



「政治的な部分であって、俺が利用してるわけじゃない。

いつまでも野放しにするつもりもないしな………」



黒い。


ただ、それを思う。



彼は、その若さに似合わない経験をしてきたのかもしれない。

綺麗な顔と、無愛想ながらもいつしか相手の懐に入り込み、思い通りに動かすのか?





周りからは姿の見えないシムが、そっと自分の手を握ったのがわかった。












顔色の優れないミラを、カイトは直ぐに車まで連れて来てくれた。


張り詰めた緊張が少しだけ解れ、手足から力が抜ける。


車を走らせた彼はミラを気遣ってか、無言だった………。





こんな世界を知りたかったわけじゃないのに……。


ニルがいなくても、彼の跡の残るあの場所にいられたら良かった。



複雑な気分の中、夜になった街を見つめながら帰路につく。


電気というものは本当に明るく、闇を退くほど街は輝いていた…………。
< 42 / 205 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop