彼女に捧げる新世界
コクコクと頷くと、彼から笑みの気配がした。
「ここの連中でまともな人間は一握りだ………。
利用している部分もあるが」
ここを………?
彼が……!?
青い顔をしたミラにクッと喉を鳴らした。
「政治的な部分であって、俺が利用してるわけじゃない。
いつまでも野放しにするつもりもないしな………」
黒い。
ただ、それを思う。
彼は、その若さに似合わない経験をしてきたのかもしれない。
綺麗な顔と、無愛想ながらもいつしか相手の懐に入り込み、思い通りに動かすのか?
周りからは姿の見えないシムが、そっと自分の手を握ったのがわかった。
顔色の優れないミラを、カイトは直ぐに車まで連れて来てくれた。
張り詰めた緊張が少しだけ解れ、手足から力が抜ける。
車を走らせた彼はミラを気遣ってか、無言だった………。
こんな世界を知りたかったわけじゃないのに……。
ニルがいなくても、彼の跡の残るあの場所にいられたら良かった。
複雑な気分の中、夜になった街を見つめながら帰路につく。
電気というものは本当に明るく、闇を退くほど街は輝いていた…………。