彼女に捧げる新世界
「こっちに来てくれ」
書物を脇に抱えた彼が軽く手招きした。
風が強すぎて少しづつしか進めないが、一歩ずつしっかりと地を踏み前へ進む。
鼓動が早くなった。
期待なのか、緊張なのかはわからない……。
進む度に“彼”の顔がチラつき、声が蘇る………。
バカだな、
と思った。
忘れられるわけがないというのに………。
轟く雷鳴が恐ろしいと思わず、どこか懐かしさまである。
彼の場合は本当に雷を落とすだろうが………。
ねぇ?
ニル………。
会いたいよ、こんなにも悲しいの。
「………………」
彼によく似たカイトがスッと伸ばした手を握る。
海や空のような澄みきった青い瞳に自分が映った。
彼も温かい………。
稲光の中、カイトはどこからか出した小さなナイフでミラの指先を少しだけ切った。
痛みはあまりなく、けれどぷくりと溢れる赤い血。
時間がとてもゆっくりに感じた。