優しい手【短編】
私の顔を覗き込んでくる。
その真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうで俯いてしまう。
「返事は?お姫様」
わかってるくせに。
俯いて彼の顔は見えないけど口調から笑っているのが想像できる。
好きすぎて、苦しい。
幸せすぎて、逆に苦しいよ。
辛いことと嬉しいことって同じだけあるっていうけど、それだねきっと。
でも、こんな苦しみだったら悪くないかな。
「ねえ」
「ん?」
「キス……して?」
優しい手がまた私をゆっくり引き寄せ、
瞳を閉じてすぐ、唇に柔らかさを感じた。
目を閉じる前にみた彼の嬉しそうな笑顔が、
頭から離れない。
好きが……止まらない。
end.
2010,10,11